ミルクジャムを知っていますか。
突然ですが、皆さんはミルクジャムを召し上がったことがありますか。これは名前の通り、牛乳をコトコト煮詰めていく過程で、適度に砂糖を加えながらつくるジャムで、ミルクのコクと濃厚な味わい、口の中でフワッと広がる甘い香り、なめらかな舌ざわりをそのまま封じ込めたもの。ほかのジャム同様、トーストやパンケーキなどに塗って食べるのが一般的です。
でも、デパートや大手スーパーなどでも、めったに見かけないでしょう?それは、つくり方がむずかしく、やろうと思うところが少ないからです。技術的なこともそうですが、搾ったばかりの新鮮なミルクを十分に調達することもまた、容易ではありません。でもそれを実行して、確実にファンを広げてきたのが、(有)十勝しんむら牧場のミルクジャムです。
ことの発端は、ちょっとした好奇心。
十勝しんむら牧場も以前は、広い土地に乳牛を放牧し、搾ったミルクを農協に卸す酪農を主業とした牧場でした。しかしあるとき、フランスの食品会社がミルクジャムをつくっていることを知ります。日本ではどこもつくっていなくて、輸入さえされていなかった未知の商品。でもおもしろそうだから、自分たちでつくってみよう。そのちょっとした好奇心がきっかけでした。
材料は新鮮なミルクとお砂糖だけ。粘性の高い添加物を加えればもっとたやすくできるはずなのに、それをしないことが、自分たちのこだわりです。でもジャムづくりは予想よりはるかにむずかしく、何度も失敗をくり返しては挫折感を味わう日々。しかし1年間の試行錯誤の末、ようやくフランスの製品にも負けない、おいしいミルクジャムが完成します。
それは21世紀になる1年前。ちょうど2000年の初めのことでした。
新しいコトへの挑戦も、導かれるように。
生まれたてのミルクジャム。それは「たとえ生産効率は悪くても、大手ができない自分たちのやり方にこだわった」、十勝しんむら牧場初のオリジナル商品でした。はじめはどれだけ売れるか、あるいはどんな評価をもらえるかまったくわかりませんでした。でも幸い、いろんな方の後押しやアドバイスのおかげで、東京や大阪、札幌などの百貨店に卸すことができ、一躍人気商品に。
その後、ある方から勧められてクロテッドクリームづくりにも挑戦。さらに、このクロテッドクリームとミルクジャムの良さを引き出したくて、スコーンづくりにも取り組みました。また、最初はプレーンだけだったミルクジャムにバリエーションが次々と増えていったのも、自分たちが食べたい納得できる味を追求していった結果なのです。
おいしいミルクは、土と草のでき次第。
意外に思われるかもしれませんが、「乳牛にとっていちばん大事な要素は、土づくりにあるんです」と、新村工場長はいいます。
良い土には微生物や昆虫、バクテリアなど多種多様な生物が生きていますが、土の中のその栄養分や水分をいっぱいに吸い上げた草は、ビタミンやミネラルがたっぷり。青々とおいしそうに育ったその草を毎日食べる牛たちは元気になりますし、もちろんおいしいミルクもたくさん出してくれます。理想的できれいなこの循環こそ、牛に必要なサイクルなのですね。
土づくりがあって、草づくりがあって、牛づくりがある。そこから生まれたミルクがおいしくなければ、ジャムをはじめすべての乳製品はつくる意味などなくなりますから。
まるごと、十勝のミルクの味がします。
(有)十勝しんむら牧場 取締役工場長/新村 恵理
「ミルクのおいしさ、ぜんぶ。」これが私たち、十勝しんむら牧場が掲げるキャッチフレーズであり、理念そのものです。新鮮な牛乳のおいしさを存分に味わってほしくて、牧場で生産した放牧牛乳と北海道産のグラニュー糖にこだわり、オリジナルのミルクジャムをつくりました。もちろん、余計な添加物など一切入っていません。また、放牧牛乳の脂肪分を集めて熟成させた生乳からつくるクロテッドクリームも完成させました。これらの商品は、熟練のスタッフが一つひとつ丁寧に手づくりするので、年間それほどたくさん製造はできません。でも、召し上がったことのない方には、ぜひ一度お試しいただきたいですね。どちらもまるごと、十勝のミルクの味がするはずですから。